「日本一苛酷なレース」と名うちたる登山競走富士に挑み来

去年の夏きはめたる山年齢の制限ゆゑに五合目までを

バイパスの通りて廃る登山道未踏の裾をきはめむと来ぬ

富士吉田市役所前をスタートす景勝の富士見えぬが侘し

街中を一直線に駆け抜けて浅間神社の緑陰に入る

森閑と草木の黙す富士の裾盛夏の山の鎮もりにけり

盛り塩の備へもありて給水所中の茶店を過ぎて山道

馬返しまでは駆けむと思へども勾配きつくわれ歩みをり

足元の危ふき道にとらはれてひたすら汗の滴るを見つ

ひたすらに足元見詰め登る道空腹感に腹の虫鳴く

伴走をするもさるるもこの道をロープの人のゐるが驚き（注記）

這ひ登る霧を透かして山頂の微かに見えてゴール目前

完走を便りに記す友にまね甥へ返信雲上閣にて

御山にて暑中見舞ひを出す友の慣ひゆかしく習ひしたたむ（桜井茂雄氏　連続13回）