妻の里の蜃気楼マラソンにエントリー妻の参加を得られぬままに

妻とともに参加の成るを望みつつ長き年月われは待ちをり

長男が心一つに盛り上げて家族総出の旅となりたり

マラソンに男三人参加する妻と娘も出で走るべし

魚津なる妻のふるさとに墓参兼ね家族五人の久びさの旅

妻の甥が地元にをりて子らを待つ従兄弟ら共に走るを期して

大粒の霰にはかに地に撥ねて土砂降る雨の最中にコール

わが子らはビニール袋の合羽着て春雷轟く中をスタートす

うかららの立つ街角にポーズとるカメラ構へて待つに応へて

さ緑に田植ゑ成りたる雨の田を燕の宙にひるがへり飛ぶ

蜃気楼はいづくに見ゆるとわれ問へば海岸線の彼方を示す

どんよりと雨雲覆ふ有磯海に横たふ能登の島影が見ゆ

立山の雪嶺撫で来る風なれば薄ら陽に焼く肌に爽やか

乾きくる魚の臭ひの漂へり薄ら陽浴びて駆くる港街

丸焼きの岩魚のこつ酒回し呑む片貝川にて義兄の釣りたる

マラソンにて昨夜控へし酒なれば六腑にしむる酒のうまさよ

朝明けに父義母混じへ五十歳の誕生日なる妻を祝ひぬ

わが妻へ子らの母への贈り物最上ならむ故郷に来て

蜃気楼と成りたる望みいつの日か妻もろ共にまこと駆けたし

主われを無視することの多き妻残り世だけでも従ひて来よ

　開催日　　　　平成２年４月29日

　主催地　　　　富山県魚津市

　参加種目　　　20km

　記録　　　　　 １時間49分11秒

　ゼッケン　　　NO・１２４

　「山の辺」　　７月号