（１）

のめり込むほどに狂ひてわれ挑む百キロマラソン身のほど忘れ

百キロに挑む己になるものか月二百キロ五年を駆けて

すべからく「記録と膜はやぶるもの」破らるるもの百キロ挑む（注記）

鶴岡の百キロマラソン主催者は「ＪＯＹマラソン」に繋がる縁（著者　竹田昭彦氏）

「素晴らしきランナーたち」ともろともに紹介されたる親しみに出づ

来るはくる「じゃーあなる」会報やがて逢ふ友らの活躍貪りて読む

漢学の素養の高き代表の季のエッセイあじはひ深し

迫りたる百キロマラソン訪鶴がいやが上にも心高ぶる

気配りがかたじけなくもわれ嬉し初の訪鶴心は燃えて

スタッフらの意気に応へてわれ駆けむふれあひ楽しく駆くるが役に

コメントを一人一人に語らせて緊張を解く開会式に

純子愛こばじん豊はこの人か紙上にぎはす人ら確かむ

全員が役目を担ひ盛り上ぐる手作りの会見事なるかな

魔女魔物妖怪げてものその道の一途なるもの集ひたるかな

（２）

朝七時百キロスタート本部前制限厳しき十一時間走

十キロの周回コースの二キロごとのエードステーションを楽しみに駆く

辻々の庄内おばこの声援にふれあひ楽しく写しつつ駆く

蝗跳び蜻蛉のつるみ過ぎり翔ぶ実りの秋の取り入れ近し

めでたくも婿入りなりと道ふさぎ撒きたる物を群がり拾ふ

望遠鏡覗きて吾の名を呼びて立ち寄り行けとＡステーション

呼び込みの看板吉原顔負けのピンクムードのＢステーション

飲兵衛のわれに肴のそろひをり酒こそなけれＣステーション

様ざまに工夫を凝らすサービスにかき氷とはＤステーション

取り外し便利なれども総入れ歯粥ありがたし大会本部

四周を終へて着替への小休止フェーン現象暑さ厳しく

五十キロ六時間越え炎熱の未踏の域をもうろうと駆く

ひたすらに何を思ひて駆くるやら思ひて惑ふとりとめのなく

ベテランが歩ゆむを見ればなるほどと今更ながらうべなひ歩ゆむ

リタイアの仲間も混じりウエイブに猛声援のＢステーション

汗かきのわれに塩分不可欠を素麺うましＣステーション

音もなく夕風涼しく田を渡る長き半日先の見えたり

フィナーレを目頭熱くわれめぐる大満足の礼を述べつつ

（３）

それぞれに認定証が手渡さる委員長が読み代表が手に

情熱に溶けたる心は満ちたりて閉会式の歓びの宴

大役を果たし涙の挨拶にひときは高し感謝の拍手（実行委員長　菅原純子さん）

リンカーンの説になぞりて「ランナーのための大会」なるとこそ知れ

歓びを与へることの喜びを悦びとなす鶴岡代表

若き娘を束ね采配指揮振るふエネルギー源さこそ潜むれ

虫の翔ぶ羽音聞こゆる羽黒山一夜の明けて石段登る

報告は歌にあらずと言はれつつ挑みて詠ふマラソンの歌

　開催日　　　　平成３年９月８日

　主催地　　　　山形県鶴岡市

　主催者　　　　代表　菊地光男氏

　種目　　　　　１００km　制限11時間

　記録　　　　　80km　10時間52分40秒

　ゼッケン　　　NO・60

　注記　　　　　福山鉄人会会報，91年８月号

　「長流」　　　12月号