奇抜なる大会求めてエントリーわれマラソンにのめり込みつつ

新なる刺激求めて永平寺参道マラソンに出づ寺に泊りて

修行僧のくらしの一日の体験が遊び心のマラソンに出づ

入山と同時に作法を教へらる用語馴染めず覚えられなし

回廊を歩むに私語は慎めと風呂も食事も導かれ行く

数か月寺にくらせばダイエットなどたやすかるらむ精進料理

両膝を支へに重心坐布に据うれば座禅確かに心定まる

生唾を飲み込むさへも響くかと禅堂に足を組みて目を閉ず

ビデオにて四季の本山を垣間見る開祖以来の伝統行事

消灯を前に密かに般若湯を睡眠薬代はりに飲みて熟睡す

暁に起こされ坐禅しんしんと冷ゆる法塔にて勤行はじまる

マラソンの旅の記念に永平寺へ瓦志納し数珠をいただく

スタートの間を持て余し分かち飲む銚子一本昨夜の友と

好天に恵まれたりと地元ではわれ降雪を望みしものを

門前の老い杉太しすべからく開祖以来の歴史を知りて

亡妻の菩提時なればまさかとはわれのせりふと富山の友は（桜井光雄氏）

永平寺の門前街を一気に駆け下る一筋道を風に煽られて

山峡の一筋道を甲高く子らの声援透き通りたり

山肌の日陰に残る春の雪暖冬ゆゑに雪の少なし

いにしへに通ひし人は草鞋履き雪解け道を凍えゆきけむ

マラソンにて往時をしのぶ禅の道舗道を靴にては比較なるまじ

鉄道も道路も川も相寄りて山懐に峡のせばまる

雪かづく山懐に永平寺ゴールは街の小さき広場

山峡の黄昏早し般若汁の熱きをすする寒き日陰に

マラソンのパノラマ写真をわれ見せて触れ合ひ楽しきマラソンの旅

『マラソンの旅』百ヶ所一首をわれ編まむ夢の膨らむうつつ楽しく