平成４年作

自然人レースの幟立ち並び酔狂の人集ひたるかな

ヘルメットを借りて念書に拇印押す事故の責任己に帰すと

炊飯の煙たなびきピクニック河原に人の賑はひ遊ぶ

上流に向ひて河原を駆け出せばいきなりの渡河魂消たるかな

しぶき上げ浅瀬を渡り濡れ鼠花冷え寒し水の冷たく（水温１０度）

川底の石に滑りて尻を打つ怖じ気のつきて先の恐ろし

いく度も流れを渡り淵に沿ひ青き流れの谷さかのぼる

見るからに青き流れの深みには流され渡る時に泳ぎて

峡谷の橋の上から声掛かる浅瀬を指にさし示しつつ

身に障るブッシュ掻き分け溯る岩場は四つに這ひ伝ひつつ

巌上に川の中にも点々と見張りの立てり危険はらみて

攀じ登り跳ね飛び降りつつさかのぼる秋川渓谷道なき道を

数百の人の辿れば自ずから辿りたる跡あとが道なり

自然人レースかほどに酷なると思はざりけり身を傷めつつ

冒険と危険は腹背先鞭をつけたる人のなべて尊し

大岩を巻きて岩場をわれ上る早しと泳ぎ下る女（ひと）あり

折り返す五キロ地点のわが時計並みのレースの三倍要す

やや慣れて帰るさわれは自然人岩場も流れも恐れ薄れて

絡みたるビニール布切れ汚らし増水時の嵩示しつつ

竿先を見詰めたるまま釣り人は動くともなし関はりのなく

酔狂がほどを笑ひて見送らるピクニック客河原に遊び

靴に入る砂利も何時しか気にならずわれ自然人道急ぎつつ

冷えたる身感知なきままゴールイン自然人風呂に悦び漬かる

呼び物の自然人風呂は靴のまま着の身着のまま男女混浴

ワンカップを飲みて帰還の無事祝ふたまげたるかな自然人レース

したたかに打ちたる臀部思ひ出の証が痣に残りて痛む

平成５年作

春長けて水温みたる秋川の河原に遊ぶ人の賑はふ（水温１４度）

酔狂が者の集へり自然人女性も子供も河原を埋めて

すべからく河原に遊ぶ人は皆自然人なり主催者曰く

ユニークなる大会なるかな自然人レース道なき川を走らす

細りたる水は温みて駆けやすし自然人のわれ今年二年目

一斉に物芽幼く萌え出でて浅黄に靄ふ谷さかのぼる

小鳥啼き山吹の花枝垂れ咲く淵辿りつつ朗らかなるかな

われは追ふ岩を跳ね飛ぶ仲間らをパノラマ写真に時に撮りつつ

猿山の猿のごとしも自然人岩場を跳ね飛び伝ひ走るが

水温む川に漬かりて心地よし深みは泳ぐ流れに乗りて

悦びが裡に込み上ぐ自然人レース自然にわれは委ねて

大幅にタイム更新自然人二歳のわれはレースに慣れて

自然人部落過密に列をなす呼び物の風呂・段平汁も

ユニークなる大会なれども自然人ややに過密になりて興覚め