撮れたると思ひてゐしに空回り歌も空転わがさくら道

密かなる誇りに応ふ車窓よりわれらの行く先尋ね問はれて

渋滞の道を尻目に側を駆く天気晴朗ゴールデンウイーク始まる

季による農事に暦の休みなし田植え盛りの春の連休

足元に短き影の炎昼は氷がちそう頭にのせて駆く

われを師と押しかけ弟子に名を授く走りて詠ひ飲むもこよなし（成瀬泉峰氏）

「お待たせを」期待されたるわれ一人一家総出の友のエイドに（福井桂子さん）



逆走の情けなきかな地図落し腹ごしらへに入りし店まで

地図落しあわてふためき戻るわれ後追ひて来し友らに問ひつつ

夕闇の迫るを前に入りし店忘れし地図の有りてさいはひ

われ初にたどる夜道の月明り地図を読まむとライトは持つも

月影に昼は日影にわれは駆くウルトラマラソンただひたすらに

迫りたる谷を貫く高架橋が夜目に見やすく位置の確認

月明に白布のごとき長良川しじまに聴こゆる山鳥の声

真夜中にライト回して誘導のエイドの友らに頭がさがる

大会の趣旨に立ち寄る佐藤桜ライトアップの花の満開

わが野糞定刻通りの衝動にウルトラマラソン二日目に入る

体力の消耗激しきはずなるに眠気はあらず徹夜の遠足

一昼夜走りつづけて眠気なし朝の冷気の清々しくも

春の季をさかのぼりつつ分水嶺桜はいまだ雪の残りて

われ落す汗は流れて日本海へひるがの分水嶺をわれの越えたり

幹太き荘川桜は節くれて樹齢四百年の偉容をたもつ

走りたる距離も時間も新記録余裕残してわれのリタイア

舌にしむ冷酒のうましリタイアを決めて友らを見送りにつつ

小娘ら草の葉むしりて尻をふく情緒豊かに残る山里

肉体を酷使のうえの泥睡の心地好きかなルネス金沢

大会に競争意識のまるでなし九人一緒のゴールに感動す

少々のタイムオーバーは切り捨てに丸二日間も走りてくれば

声枯らし進行巧みに呼びかけ人ウルトラマラソンの友はタレント（海宝道義氏）

大会の秘密を守り来年も必ず出でむこの《さくら道》

　私の豪華なマラソンライフの連休が始まりました。前半がこのさくら道。後半が中山道の予定です。まず初日は、日本橋をスタートする中山道の仲間らを見送りながら板橋宿まで走り、夕方名古屋入りしました。娘はこの春嫁ぎ、２人の息子は単身ながら独立しており、女房と２人だけの気楽なわが家です。

　絶好の行楽日和。しかし、マラソンには堪えそうです。

　私のウルトラマラソン歴は貧弱なものです。２度の萩往還１００�qは完走はしたものの、２度とも大幅なタイムオーバーでした。３年続けて参加した制限１１時間の鶴岡１００�qは全て８０�q止まりでした。そんな私が２００kmを越えるさくら道に出ることになろうとは……。

　参加するからにはと昨年のさくら道の文集を再読しました。私は昨年は出場していませんが、ウルトラランナー諸君の活躍には興味があって、文集は入手していたのです。ランナーズやシティランナーなどよりもずっとおもしろい読物です。シティランナー誌に苦言を。文字も写真もルーペを使わなければ見えません。鈴木編集長様是非ご一考を……。私は昨年のホノルルマラソンに、同誌主催のツアーで参加して虚無僧姿で走ったのでした。

　文集では編集者の見野容氏の記事を丹念に読みました。東海道で４日間も一緒させて戴いたので、体験上最も参考になると思ったからです。

　その見野氏は暑さに参ってかすでに私の後方です。

　ともかくもさくら道はスタートしました。めぐり会った人物を追いながら私のさくら道を点描してみたいと思います。

　昨年は雨と寒さで大変だったようなので、今年の遅雪情報を聞きながらの準備は、雨と寒さ対策ばかりでした。なのにこの暑さは何てことだ。山口数博氏敬子さん夫妻のエイドには氷がありました。これから夏の大会にかけては頭に載せて氷が何よりの馳走です。さすがに、真夏の大会の夜叉ケ池マラニック実行委員長のエイドでした。

　大汗かきの私には塩分補給が肝要です。蕎麦でも食おうと探すが、通りの商店街は日曜休日。郊外に見付けたラーメン屋に入ると、西村邦生氏がいました。氏の速歩は定評で、この後私は追い付くことがなかったのでした。

　頼んだラーメンはあまり旨くなく、露ばかり飲んでの出発です。

　２度３度間違いやすいコーナーに現れて、道案内をしてくれたのが成瀬重彦氏でした。会う度ごとに師匠と呼んで私を祭り上げます。氏はエッセイストで、自作の短歌や俳句を折り込むのが得意です。あまりにも執拗かつ熱心なのに絆されて、駄作短歌クラブに入会を認めることにしました。名を「泉峰」と授けて。勝手に「白峰」と名乗る友がいます。岸本佐恵子さんです。名は自由。多くの方々の勝手な入会を期待したいものです。

　昼下がりの浜中好美さんのエイドは、砂漠にオアシスでした。彼女は歌人斎藤史主催「原型」の重鎮で、作歌作品に対する姿勢は、独り善がりの私などとは比べるべくもない厳しさをお持ちです。処女歌集「まだ夢中」を発行されてすでに１０年。もうそろそろ第２歌集が出る頃ではなかろうかと期待されます。

　福井桂子さんお待たせしました。吉藤尚氏のファックス通信でエイド開設を知り、当てにして参りました。後日の便りに「どんな超人的な方々が来るかと待っていたところ普通の人達だった」とは大変な発見です。福井さんもウルトラランナーとして、１回り大きくなられたのではなかろうかと思います。

　この人、浅井幸子さんを知らない人はもぐりです。旦那の保弘氏と一緒の大会では、何時もお世話になりっ放しです。氏は昨年金沢から逆走しましたが、この後私が逆走しようとは思いもよりませんでした。

　そこに一緒にいたのが越田信氏夫人とはつゆ知らず失礼致しました。数日後三条大橋で初対面の挨拶を交わしました。ご本人は娘だとおっしゃっていましたが……。

　地図がない。落したらしい。慌てました。慌てて戻りました。擦れ違った仲間に問い合わせても知らないという。おかしい。べた凪だというのに。内山氏と温泉川氏が来ました。あれ？未だこんな所に居たの？

　内山芳忠氏は今秋スパルタスロンを狙うという。こんな調子でいいのだろうか。そういえば堀ちゃんこと堀池計年氏が私の直ぐ前を走っていたっけ。氏は毎年さくら道の後、萩往還２５０�qも完走する化物だ。

　温泉川清志氏は昨年は下痢で悩みながらも完走したベテランだ。今年も下痢なのだろうか。氏に墨染めの衣を着せれば山頭火に生き写しと思う。俳句はうまいし漫画もうまい。開会式に震災見舞の礼を述べた加藤ひろみさんと共に、待ち望まれる愉快な記事のライターです。青ざめて戻る私をどう描くことやら……。

　地図はありました。黄昏を前に腹拵えに入った店に置き忘れたのでした。往復およそ２０分のタイムロス。あーあ。撮れていると思ったフイルムが空回りだったのもとんだドジだ。せっかく初対面の阪納万紀子さんと一緒に撮って貰ったというのに……。

　私は夜道は平気です。生まれの信州飯田もさして変わらない田舎です。月夜に落す自らの影を道連に、昔を懐かしみつつ、足は快調そのものでした。

　水羊羮が旨かったのが沖山健司氏裕子さん夫妻のエイドでした。国際ネイチャーランを２人とも完走したばかりだというのに有難うございました。トライアスロンがオリンピック種目に決まったからには、ウルトラマラソンも遠からず決まるに違いありません。その暁の金メタル候補がお子様と、出産をけしかけるのですが……。なんですって、自分達が出るとですか……。恐れ入りました。

　白鳥のエイドに着いたのは内山氏より先だったような気がします。

　火鉢で暖を取りながらのエイドステーション。有戸啓子さんがお粥やら豚汁・おでんとあれこれサービスをしてくれました。仮眠所で一休みして出ようとすると見野氏がいました。ここでリタイアをするという。内山氏はまだ寝ている。堀ちゃんは先ほど出ていったばかりだ。なにか変です。変なのは私か？　未明４時、朝食用におはぎを２個パックに詰めていただいて出発しました。

　奮起した内山氏が私を抜いて行きました。しかし、ひるがの分水嶺でまたも追い付きました。私もスパルタスロンに出ようかしらん……。

　すでに１昼夜が過ぎたというのに全然眠くない。この分ではもう１晩くらいは行けそうに思える。思った以上に上出来な自分に満足しつつ、荘川桜まで残るを楽しもうと悠々たる走りでした。

　分水嶺にいた千田・河合両氏のエイドが移動していました。吉藤氏が加わっています。私のこの先のリタイアと酒好きを知る吉藤氏が、缶ビールを２本もくれました。「★　酒という文字を見るさえ嬉しきに飲めという人神か佛か」　この１首は酒造メーカーのコピーです。私にはここまで無事に来られただけでも祝杯もの、タイミングのよい差し入れに、氏が本当に神様に見えたのでした。それにしても２本は多い。ちょうど来合わせた渡辺実氏に差し出すと、これがなんとも、入れ歯がいまにも零れ落ちそうなほどに、相好を崩して受け取ってくれたのでした。氏も相当な酒好きのようです。

　荘川桜到着は１０時１８分。制限の１１時には未だ間があります。しかし、予定どおり私はリタイアしました。疲れてはいたが足腰はどこもなんともなく、余裕を持ってのリタイアです。連休の後半に、中山道ジャーニーランの仲間らに合流して、関ケ原から京都三条大橋まで走ることになっています。だからといって力を温存したつもりはありません。距離も時間も私にとっては新記録で大満足のリタイアでした。

　荘川桜が唯一つのチェックポイントです。少ないボランティアが移動しながらの活躍です。山口敬子さんに会ったのはここで３度目です。どこで寝たのかな？　カップうどんが旨かったです。２杯も戴きました。

　リタイアとともに私のさくら道は終わったのですが、ゼッケンを外した私が、次のエイドで大変お世話になってしまったので、もう１歩書き進めさせて頂きます。

　リタイア組をピックアップするバスは、制限時間の前だというのに無情にも行ってしまった後です。幸いにも名古屋へ帰るという千田氏の乗る車に、渡辺氏と私は同乗させてもらい平瀬で降りました。２人は平瀬で１杯のみながらバスを待つ魂胆です。酒屋を尋ねて行くと、神様がいました。呼び掛け人の酒井飛峯氏もいます。平瀬のエイドでした。

　リタイアのつけたしのついでに話題を逸れると。飛峯氏は安中仮装マラソンでは虚無僧軍団の１員で、私の３番目の弟子です。先の千田氏も虎峰と称して私の２番弟子です。虚無僧軍団には他に３名いて、さくら道では常に上位入賞の今野廣隆氏がその１人です。しかし、氏は弟子ではありません。濤鴻と名乗る尺八の名手です。因みに１番弟子は龍峰こと竹田昭彦氏。４番弟子が連峰こと桜井光雄氏です。それぞれ勝手に「峰」の字を付けて皆押しかけ弟子です。私は峰の字を戴くために謝礼金をウン１０万円も払ったので、これ幸いと弟子どもから少しはいただこうと考えました。ところが、弟子どもは尺八が全く吹けません。諦めざるを得ないのでした。ともあれルネス金沢で同席した、恵利明氏は登山流の達人らしいので、虚無僧軍団への入団を期待したいものです。

　話が逸れ過ぎました。

　神様がまたもやビールを持って来てくれました。堀ちゃんが来ました。内山氏も来ました。ここはエイドです。２人とも当然のごとくにビールを飲んでいます。酒がウルトラランナーのエネルギー源であればこそ、渡辺氏と私は改めて精進して飲みたいものと酒屋を尋ねると、エイドの田口家の奥さんが、自宅の冷蔵庫からワンカップを４コも持って来てくれました。恐縮に思えばこそ断りながら、厚かましくも手を出していた私たちです。飲み干してすっかりご機嫌の渡辺氏と私は、弟子や神様、そして、エイドの可愛いお嬢ちゃん達に送られてバスに乗りました。

　大会を支えて下さったスタッフの皆さんありがとうございました。お世話になりながら、お名前を知らないばかりに飛ばしてしまったエイドの皆さん、申し訳ございません。拙い歌ですが私の「マラソンの歌」に興味をお持ちの方はお知らせください。恥ずかしながらお礼の代わりに送らせていただきます。

　素晴らしいさくら道。来年も出たいなら人に吹聴しないで秘密にせよとのこと。私は是非参加したいので、秘密を守る証しとして『マラソンの歌』の発行を半年遅らせます。傲慢に聞えましょうがお許しください。よしんば影響力ゼロとしても、饒舌は証拠になりません。しかし、発行されなければ見ように見られない証拠です。

　どうか来年も宜しく。と、いかにも秘密にかこつけての発行延期ですが、実は、今年から年一度にしようと思っているので、ここに公表することで決断したいと思います。

　さらにお断りを。すでに多くの方々から予約を頂いている「百走一首」ですが、まだ編集に手がつけられないでいます。どうやら毎日が日曜日になってからになりそうです。

　追記　　★　マラニック峰を登りて一休み夜叉の池は青くたたずむ　（至峰）

　荘川桜でリタイアした後、ルネス金沢でアフターマラソンを一緒に楽しんだ、諸岡俊弘氏から上記の１首を添えた便りを頂きました。７月、夜叉ケ池で再会の後です。押しかけ弟子のまた１人誕生をほくそ笑みつつ喜んでいます。