白壁が夜灯に映ゆる明石城止まざる雨を覚悟し眠る

春雨にけぶる須磨浦朝七時六甲縦走スタートなしたり

駆け出せばいきなり取りつく急坂に魂消たるかな初なる参加

体験のあるが参加の条件を偽りて出づ六甲縦走

ベテランの友が頼りの参加なり二人コンビが慣ひとなりて（千田�_三氏）

六甲の山並み険しき急峻を登るも苦し下るも苦し

汗かきのわれは給水自販機に頼りて備ふ一缶担ひ

連なりて須磨アルプスの尾根伝ふたまゆら足の竦むが覚ゆ

山と山隔たりて経る市街地は迷路のごとし友の後追ふ

いにしへの戦の名残源平町ひよどりごえ駅いまに伝へて

やはらかく芽吹き促す雨の降る桜前線停滞させて

展くれば目線走らす海岸線ポートアイランドが煙雨にかすむ

市ガ原のチェックポイント慌てたり探すカードが見当たらなくて

賽銭をなして忘れし財布なり霊験あらたか出でさせ給へ（大竜寺にて森　卓馬氏）

摩耶山の頂き待てず腹ごしらへ食へざる兆しを未然に防ぐ

「走」と言ふ言葉も綾に歩むなり六甲縦走車道に出ても

牧場の内なればこそ安全を羊危ふし車道に遊ぶ

本降りとなりて濃霧の道遠し側の白線ひたすら辿る

三週前試走なしたるわが友は濃霧ものかは迷はず辿る

最高峰巻きて濃霧の道険しぬかるむ道を黙もく辿る

数百のランナー駆けて辿りたる道は獣の臭ひに臭ふ

危ふくも木の根岩角手に伝ふ滑りてのめる身を支へむと

思はずも泥の軍手にて顔拭ふ鶯の糞効くと友言ふ

霧深き常緑樹林の暗闇はぬかるむ道の光るを辿る

九時間を越えて痛む身引きずりてゴールの塩尾寺未だ遠しも

辛くとも歩めば時がもたらして吾ゴールインゼッケン見せて

もう一日泊まらむとして当たりたる宝塚の宿女性専用

関西の友に飲まむと誘はれて遅きが悲哀すでに間のなし（酒井忠彬氏他）

翌日が会議となりて帰るなり取りたるホテルキャンセルなして

　開催日　　　平成４年３月29日

　主催者　　　兵庫県勤労者山岳連盟

　距離　　　　52km　記録　９時間42分　ゼッケンNO・３２６

　「長流」７月号　　「じゃーあなる」１３３７号