山を駆け川を駆けねば片手落ち六甲に出で秋川に出づ

自然人レースの幟立ち並び酔狂の人集ひたるかな

炊飯の煙りたなびきピクニック河原に人の賑はひ遊ぶ

ヘルメットを借りて念書に拇印押す事故の責任己に帰すと

是非見たし「独占女の六十分」リポーターの宣誓選手に出でて（杉田こゆりさん）

上流に向かひて河原を駆け出せばいきなりの渡河魂消たるかな



しぶき上げ浅瀬を渡り濡れねずみ花冷え寒し水の冷たく（水温10度）

川底の石に滑りて尻を打つ怖じ気のつきて先の恐ろし

いく度も流れを渡り淵に沿ひ青き流れの谷さかのぼる

カメラ入るウエストポーチが水被るたくし上ぐれど深みに漬かり

見るからに青き流れの深みには流され渡る時に泳ぎて

峡谷の橋の上から声かかる浅瀬を指にさし示しつつ

身に障るブッシュ掻き分け遡る岩場は四つに這ひ伝ひつつ

巖上に川の中にも点々と見張りの立てり危険はらみて

攀ぢ登り跳ね飛び下りつつさかのぼる秋川渓谷道なき道を



数百の人の辿れば自づから辿りたる跡あとが道なり

自然人レースかほどに酷なると思はざりけり身を痛めつつ

冒険と危険は腹背先鞭をつけたる人のなべて尊し

大岩を巻きて岩場をわれ上る早しと泳ぎ下る女（ひと）在り

折り返す五キロ地点のわが時計並みのレースの三倍要す

やや慣れて帰るさわれは自然人岩場も流れも恐れ薄れて

絡みたるビニール布切れ汚らし増水時の嵩示しつつ

竿先を見詰めたるまま釣人は動くともなし関はりのなく

酔狂がほどを笑ひて見送らるピクニック客河原に遊び

靴に入る砂利も何時しか気にならずわれ自然人道急ぎつつ

冷えたる身感知なきままゴールイン自然人風呂に悦び漬かる



呼び物の自然人風呂は靴のまま着の身着のまま男女混浴

ワンカップを飲みて帰還の無事祝ふたまげたるかな自然人レース

したたかに打ちたる臀部思ひ出の証が痣に残りて痛む

　開催日　　平成４年４月12日

　主催　　　秋川市観光協会

　距離　　　10km　記録　２時間40分？　ゼッケンNO・１４６

　「山の辺」７月号　　「ユウ便」２８７号　　「フル百会報」７月号（ユウ便より転載）