商売の道具といへば合羽橋商店街の衰退わびし

われ「デコラ」を担ぎ歩みて三十年通ひ慣れたる合羽橋通り

華やかに取り引きなしたる思ひ出の店とも今は縁の切れたり

一店を象徴としてわが定めリストラの身に子会社へ行く

ストレスの良薬としてマラソンを今更ながらうべなひてをり

サンセットマラソン詩情に誘はれて出で来れども雨雲厚し

渇水に佐世保長崎二か月も雨が降らぬと悲鳴が聞こゆ

太陽の位置さへ知れぬ雨曇りスタートすれば雷の鳴る

こぼれ落つ雨は地元に慈雨なるもはるばると来しわれにつれなし

山際の雲間に透ける陽を見つつ夕やけマラソンといふは侘しも

十キロの関門一時間まさかとも思ひの外の危ふきに駆く

鬼岳が雲を支へて地域雨こぼるる雨の近郷を駆く

牛肉が島の名産五島牛夕焼けマラソン牛舎が臭ふ

かすかなる夕陽を背に振り返る振り返りつつ失意これなし

朝発ちて飛行機乗り継ぎ来しものを夕焼けマラソン幻に駆く

西海に沈む夕陽に誘はれてわれ来しものを幻に駆く

沖縄の返還前の最西端サーチライトの明りが点る

宵闇を意外に苦戦を強ひらるるこぼれし雨に蒸されて暑く

ぬかるみの照りの見分けのつけ難く漬かりつつ駆く雨の宵闇

提灯の明り優雅に道しるべ雨の宵闇マラソンを駆く

暗闇に傘もささずに道端に立ちて声援心のこもる

予期せざるワーストタイムは西海の没り日の有無に関はりのなし

回したるビデオテープが戻り来ぬ虚無僧仲間のコメントつきて

わが歌がテープとなりて戻り来ぬ伴走仲間の友の手配に（相良勝広氏）

新刊をテープに吹くと電話来ぬ独り歩きの『マラソンの歌』（岸　栄子さん）

　開催日　　 平成６年８月28日

　主催　　　　太陽の島・五島フェステバル実行委員会

　参加種目　ハーフマラソン

　記録　　　　２時間15分06秒

　ゼッケン　 NO・Ｂ１７５

　「長流」・「山の辺」　12月号